でウ亜ほで 名誉も犬も なんでもない

「でウ亜ほで」

頭を抱え机に突っ伏した山口韻汰亜那庶鳴(ヤマグチインターナショナル)は、こんなため息をついた。この時期になるとよくでる、彼の悪い癖だ。

「ため息をつくと幸せが逃げていくよ」

そういって、山口の髪の毛を掴み、思い切り魚の骨の山に叩き込んだのは友人のグエンだ。ベトナム出身である。

 

山口からすると面白くない。

彼はかなり現実的なタイプな男だ。いわゆる「冷めてるヤツ」。

山口からすると、そんなありきたりでなんの解決策にもならない励ましよりも、もっと現実的なアドバイスというか、欲を言えば抜本的な「答え」をくれた方が何十倍もうれしい。

 

「授業中ですよ。」

教師の勅使河原は、まるで学生に関心がない。今回も、黒板から一切目を離さずに、機械の様な冷たい声で、形式ばかりの注意をした。彼にとっては慣れっこだ。

 

山口は母親を恋しく思った。

思えば、ここ最近実家にもろくに帰れていない。

将来のため、県外の高校に進学したのは良い選択だったと今でも信じているが、もしかしたら親不孝だったのかもしれない。

山口は勅使河原を刺した。食べてしまった。

でも、そんなこと、実際彼はしていない。

誰が信じるというのか?

「切羽詰まってゆくゆくの、どうしようもない行動だった」

そんなことをいうと、山口に嫌われてしまうかな、とグエンは思っている。自覚しているのだ。

 

ゴールは目指すものだが、今回だけはそのゴールが物憂げな表情を浮かべ、銅鑼を鳴らし、襟を正して、とんでもない勢いで、こっちに走ってくる。

 

「でウ亜ほで 名誉も犬も なんでもない」

勅使河原のこの川柳は、山口の部室にも、グエンの部室にも金ぴかの額縁にいれて飾られている。